この例の営業さんが言っていることは正しいです。
データベース関連の脆弱性があると非常に危険なので、この営業さんが言う通り、コストよりも安全性を優先するべき旨の考え方は正しいことです。
また300万円という金額に関しても、いわゆる「ボッタクリ」などではないです。しっかり診断するために診断内容を充実させると、そのぐらいの費用になるのはおかしくないです。例えばデータベースのサーバのプラットフォームを検査するのに100万円、データベースを使用するWebアプリケーションを検査するのに100万円、社員が使用するデータベースの操作画面を検査するのに100万円かかるとすれば、合計300万円という見積は適正価格です。
ではなぜ、この「避けるべき無駄」の節でこれを例示しているかというと、一般論で良しとされる内容の診断プランが、全てのお客様にとってピッタリだとは限らないからです。お客様ごとに環境やバックグラウンドは異なりますのでお客様それぞれに最適化した診断プランでないと、どこかに大なり小なり無駄が生じます。
先程の営業トークの例の中では、お客様の個別の事情を踏まえた「リスクの大きさ」は一切考慮されていません。
この例のお客様のデータベースは、高い費用をかけてでも守るべきデータベースなのか、それともインシデントが発生しても経営への影響が少ないデータベースなのかを考慮されていません。データベースの内容や使用方法・運営体制などお客様ごと個別の環境や事情などによって、一般的に優良とされる内容の診断プランも、過剰(オーバースペック)になってしまうことや、あるいは盛大に無駄になってしまうこともあります。
【例1】賠償責任が大きいと想定される場合
例えば1万件の顧客情報が保管されているデータベースが侵害されたときの損失の大きさは、大雑把に次のように考えることができます。
個人情報の件数:10,000 * 漏洩時の賠償金:3,000円 = 3千万円の損失
さらに会社の信用ダウン、売上減少などのリスクも考慮すると、当該データベースが侵害された場合は極めて大きなダメージを受けることが分かりますので、脆弱性診断はケチらずにしっかり実施するべきと言えます。
【例2】売上に深刻な悪影響があると想定される場合
データベースに顧客情報や機微情報はなく、集客用のWebコンテンツ(SEO記事など)のみ保管されている場合は、Webの集客力・販売力などに基づいて損失の大きさを考えることとなります。
集客数:月間10万人 * 購買率1% * 平均購入金額:10,000円 = 一ヶ月で1千万円の損失
もしデータベースが侵害されて集客力が失われた場合は、Webからの売上が大幅に減少することとなります。また別の問題として、集客力のあるコンテンツの場合ですと、侵入者が「Webの閲覧者がウイルスに感染するように細工する」というケースも時々あり、その場合は顧客にウイルスをバラ撒いてしまう事件に発展します。これらのことを考えると、この例の場合も脆弱性診断はしっかりやるべきと言えます。
【例3】致命的ではない場合
データベースに顧客情報や機微情報はなく、自社の商品情報のみ保管している場合など、仮に侵害があったとしても致命的なダメージは受けない場合には、脆弱性診断の「強度」に関して検討すべきと言えます。例えば「万全」ではなく「それなり」の強度にして、診断にかかるコストを抑えるなど。
【例4】リスクが限定的な場合
データベースはインターネットから隔離されていて、社内で従業員だけが使用している場合など、外部から直接にサイバー攻撃を受ける可能性が低い環境の場合は、「他の箇所を脆弱性診断すべき」と言えます。
ネットワーク機器や他のサーバ(インターネットから隔離されていないサーバ)など他の箇所が侵害されると、直接ではなく間接的にデータベースにまで被害が及ぶ危険性がありますので、それを想定してデータベースを脆弱性診断するのは良いことです。しかし、データベースよりも前の段階で侵害され得る箇所(インターネットから隔離されていない箇所)を先に脆弱性診断したほうがよいでしょう。
このようにデータベースのリスクだけに着目するのではなく、全体を見渡して予算を配分するほうが「コスパが良い」というわけです。
へー。そうなんだ。